OCEAN ENTRY LYRICS
01.家の裏でマンボウが死んでる
わからない
なにもかも
あれはなに?
輝く円盤
カラスも本能で拒否する
犬はダッシュで逃げていく
重く横たわる体
長く伸びる背びれ
くすんだ大きな目
すでに消えた魂
なぜ家の裏でマンボウが死んでる
2mくらいあるマンボウが死んでる
突っ込みどころが多過ぎて怒るに怒れない
とりあえず警察呼べばいいのかなぁ
食べてみた
うまくない
生臭い
ぬめりけがひどい
わけのわからない現実に
いよいよ死さえ覚悟した
強烈な嫌がらせか
はたまたプレゼントか
真相がなんであれ
マンボウがかわいそうだ
俺の住む町は海から遠い
でも家の裏でマンボウが死んでる
通報したが警察が信じてくれない
俺を通報しないでよ近所のおばちゃん
なぜ家の裏でマンボウが死んでる
実家のお母さんも信じてくれない
報道されちゃったぞ近所のおばちゃん
お母さん見てますか?信じてください
02.スイートフロートアパート
約束するよ スイートな日々を
浮かび上がるくらい楽しい毎日を
101号室の内山くん
優しい大人に勧められて〈脅されて〉
ベランダで育てているのは
(まだ)法的に許されてるキノコ
102号室の北里くん
種も仕掛けも未来もない
マジックで消した貯金の
戻し方がわからない
103号室の森川さん
暴力・無職・もち米似の
ロイヤルストレートクズに
果汁の少ない初恋
104号室の飯島さん
霊長類で一番モテるのに
哺乳類アレルギーだから
言い寄られるたび泡を吹くよ
約束するよ スイートな日々を
浮かび上がるくらい楽しい毎日を
一緒に過ごそう 愉快な仲間と
ここは幸せになれる場所
201号室の中本くん
品行方正な好青年
でも常識がバグっているから
仕事は象牙の密輸入
202号室の村上くん
ドMの範疇を凌駕する
戸籍に×つけてもらう時が
一番興奮するんだって
203号室の竹原さん
かわいい柴犬を飼っている
かわいがるのが楽しすぎて
職と信頼と肝臓を失った
204号室の高倉さん
初めて遊びに来る友達と
友達のためにとった寿司を
もう30年待っている
約束するよ スイートな日々を
浮かび上がるくらい楽しい毎日を
一緒に作ろう 楽しい仲間と
ここは笑顔になれる場所
内山くんちのキノコが突如繁殖して
住民みんなが意図しない絶頂にギン☆ギン
判断力と記憶中枢がトチ狂って
みんなの部屋が入れ替わったぞ!
内山くんの部屋には誠実のハリボテ・中本くん
象牙より儲かるキノコに感激してラリラリ!
中本くんの部屋には薄口初恋の森川さん
真面目そうな彼に恋!幸せにしてくれそう!
森川さんの部屋にはAMアルティメットマゾの村上くん
居座ってたクズ男に大切にしてもらってる!
村上くんの部屋には空っぽの歳月・高倉さん
放置される悦びに目覚めて大興奮!
高倉さんの部屋にはベスト霊長類・飯島さん
この無縁仏で一生孤独でいれば泡吹かない!
飯島さんの部屋には柴犬をペロペロ竹原さん
哺乳類アレルギーがうつってペット離れできた!
竹原さんの部屋には将来切断マジシャン・北里
もう犬の毛くらいしか食べるものがない!
北里以外 幸せになれたね
さあ続けましょう 楽しい毎日を
内山くんが今回のミスで
組織に海外旅行させられたから
101号室が空いてるよ
入居者募集中!
楽しいアパート!
03.誕生日、ペペロンチーノに優しくされる
誕生日なのに君はまた仕事
「ただの平日だよ」って笑う
いくつもの不満をこらえた
精一杯の笑顔
凍えるような暗い夜
疲れて帰ってきた君を
体の芯の方から
暖めてあげるよ
君が二度と寒い思いをしないように
君が二度と怖い夢を見ないように
君と同じところが痛むんだ
どうかもう小さな手が震えないように
大変だった今日をちゃんと乗り越えて
明日もまた戦う君のことを
少しでも元気付けてあげたいから
僕をフォークでくるくる巻いて
僕は君だけのペペロンチーノ
ニンニクとオリーブオイルと唐辛子が
パスタの茹で汁と絡まって
君の心を躍らせるよ
今日も忙しかったの?
誰かに嫌なこと言われた?
我慢しなくてもいいよ
僕は知っているよ
君が飲み込んだ「疲れた」の数も
君が我慢したあくびの数も
そんなもの全部吐き出してよ
代わりに僕が君の中にいるから
がんばり屋さんの君のことだから
自分でうまくブレーキ踏めないんでしょ?
僕が胃の中でもたれてあげるから
僕のベーコンを噛まないで飲んで
君の努力がハッピーエンドで終わるように
君の苦労が誰かのためになるように
インスタントの僕のようにすぐ消えてしまう
今日だけしか輝かない言葉を
「お誕生日おめでとう」
04.初対面で肘を舐める部
はじめましてこんにちは
ちょっと肘を舐めてもいいですか?
怪しい者じゃないんです
初対面で肘を舐める部の者です
と、いうことで肘出してもらっていいですか?
最初は左でいいですから
いやいや全然いやらしい目的じゃないです
スポーツマンシップに則って舐めますから
さあさ 左手を伸ばして
その次は右も舐めます
両方丁寧に舐めた後は
きちんと消毒もしますから
そんな目で見ないでくださいよ
「まるで僕が異常性癖の変態みたいじゃないですか」
この部は老若男女の境なく
初対面で肘を舐める団体です
毎年四月は大忙しです
先輩と後輩が仲良く舐め合い
一通りみんな舐め終わると
もうすることがありません
さあさ 左手を伸ばして
その次は右も舐めます
肘と二の腕の境目は
きちんと定義してますから
はやく 左手を伸ばして
その次は右も舐めます
天と地がひっくり返ろうとも
決して膝は舐めませんから
05.キッチンでカッパがタニシ茹でてる
カッパが私のキッチンでタニシ茹でてる
割と大きめの鍋で大量に茹でてる
「ごめんごめん、ガス代はちゃんと払うからさ」
ガス代とかじゃねぇんだよ
金曜日の夜 仕事は終わり 今日は家で一人
TSUTAYAで借りた「アメリ」を見ながら赤ワイン
家のドアを開け突然の異臭
ふるさとのドブの匂いがする
一人暮らしの私の家の
キッチンに緑色の人影
カッパが私のキッチンでタニシ茹でてる
キッチンタイマー片手にタニシ茹でてる
「ごめんごめん、砂抜きは外でやったからさ」
砂抜きとかじゃねぇんだよ
言いたい事は山ほどあるが声にはならない
前世で一体何したらこんな目に遭うの
「気にしないでお風呂にでも入っててよ」
この状況で風呂なんか入れるか
「ちょうどさっき沸いたところだからさ」
私は戦慄する
カッパに親切にお風呂を沸かされてる
帰ったらすぐ入れるようにお風呂沸かされてる
「ごめんごめん、一番風呂は譲るからさ」
二番風呂はやらねぇよ
お風呂から上がると
カッパの姿はなく
キッチンに残された書き置き
「冷蔵庫の中にプレゼントがあります」
カッパに茹でタニシおすそ分けされてる
小鉢にかわいく盛ってラップされてる
「赤ワインに合う味付けにしておいたよ」
ていうかガス代もらってねぇぞ
06.そして誰もいなくなって
見せてあげましょう!
私の名推理
さあ 残虐な殺人犯
覚悟しなさいな
容疑者A・被害者の親友
恋人を奪われた恨みを持つ
うなじに刺青「派手な復讐」
呆れるほど血のついた
ナイフを持ってた
容疑者B・刃物の収集家
生肉を切ることに興味津々
「豚肉程度じゃもう満たされない」
食欲ではなさそうな
ヨダレが漏れる
容疑者C・なぜか血まみれ
どう見ても致死量以上の
水筒でゴクゴクいくそれも
赤いけどワインじゃないでしょ?
容疑者D・快楽殺人鬼
殺しから興奮を得るよ
「誰でもいいわけじゃないから」
誰でもダメだよ
見せてあげましょう!
私の名推理 でも
容疑者は足りてるけど
被害者が足りない
捕まえましょう!
私の活躍で!でも
一旦全員逮捕した方がいいよ
容疑者E・挙動が激不審
不安げに語られるアリバイは
「アイダホまで飛び家畜の血を吸ってた」
嘘つきではないのなら
UMAだよ
容疑者F・清らかな目の人
アフリカで学校を作ってるよ
この並びだと逆に怪しい
振り込め詐欺何回もやってそうだよ
容疑者G・飢えたグリズリー
女将のペット・ホイップちゃん
新潟で起きた辛い事故で
人の味覚えたらしいよ
容疑者H・快楽殺人鬼
奇跡だよ二人もいるとは
一人目と意気投合
「誰でもいいよな!」
見せてあげましょう!
私の名推理 でも
犯人は足りてるけど
事件が足りない
捕まえましょう!
唯一のヒントは そう
ダイイングメッセージの
鼻にホクロ
全員にあるよ
女将が不安で泣いてるよ
これじゃ趣味の拷問に集中できない
解ける気がしないけど
とりあえず決め台詞
犯人はこの中にいる!
揃いも揃って
「そりゃそうだ」って顔すな
証拠は足りてるけど
死体が足りない
捕まえましょう!
私の活躍で なんと
清らかな目の人が自首したよ
殺人と振り込め詐欺で
逮捕!一件落着!
……他の人は何?
07.おでこに生えたビワの性格が悪い
おでこからビワの木が生えた
最初からいましたみたいな態度で生えた
無闇に抜くのも恐ろしく
医者に行くのも恥ずかしい
ビワの重みで手元が狂い
片眉を剃り落としてしまった時
涙目になる俺をよそに
爆発的に伸び始めた
悲しんだら枯れるから
笑って咲かせ続けるとか
そんな設定にして良い話みたいにしろよ
凹んでる時に限って
たわわに実ってんじゃねーよ
俺の毛の量と反比例する気かよこの野郎
おでこからビワの木が生えた
祖父の代からここみたいな態度で生えた
寝てる時には伸びないのに
起きて見てる時に伸びる
目の前にて茂りゆくビワに
ついに除草剤を散布したのだが
油断していた数分後に
後悔することになるのだ
流れてきた雫がちょうど
目に落ちてくるような
位置に枝が伸びてきてる
シャンプーハットが欠かせない
寝転んだら床に垂れて
畳が腐ってゆく
仕方なく洗い流したら
その水でまた育った
逆手に取る
落ち込むと育つのなら
笑えば枯れるはず
食らえ俺の大爆笑
右脇から二本目生えた
笑うと増えるとかアホか
しかも枝が刺さるから
右脇が閉められない
さすがにもう命の危機だ
119番にコール
救急車到着までの間に
キレイに抜けた
08.聖夜、愛犬がビデオデッキに詰まる
なんたって僕はリア充で 今夜は彼女とデートなのさ
豪華なディナーも予約済みで 夜景を背後に愛を語る
つもりさ
待ち合わせは17時半 余裕を持って準備をする
ハイブランドのスーツまとって 玄関に手をかけた時
何かが絡まる音がして リビングのドア開けた
せっかくのクリスマスにお前は何をしてるんだ
なぜそこに入ろうと思った そしてなぜ入れた
突き出す頭と前足 慎重に後ろから入ったな
どうせアホならアホらしく頭から突っ込めよ
苦しそうに呻くでもなく 逃げ出そうともがくでもない
寂しく沈むその瞳は 巻き戻しボタン見つめてた
そんなアクロバティックな タイムマシーンがあるか
せっかくのクリスマスにお前は何をしてるんだ
過去に何をしたというんだ 何をやり直す気だ
分針は真下を指し 振れる携帯の理由わけは
寒空で僕を待つ彼女 なんて説明しよう
せっかくのクリスマスにビデオデッキを分解
残念そうな顔するな犬 お前のためにやってんだ
サンタクロース聞こえるか 今僕が欲しいものは
「なんてスタイリッシュな虐待!」と言わないレスキュー隊
09.粘着系男子の15年ネチネチ
君への愛を綴ったポエムを
送り続けて15年
返事はまだ来ない
返事はまだ来ない
1年目はがむしゃらだった
毎日毎日欠かさず書いた
執拗に切手を舐めた
君に届け僕の唾液
2年目もがむしゃらだった
家が燃えても気づかぬ程
服が下から燃えていき
気づけば襟しか残ってない
3年目にはこなれてきた
もはや文学の域に達した
mixiの日記で公開した
マイミクがカンストした
4年目に雑誌に投稿した
社会問題にまで発展した
ポエム集の出版が決まった
僕はサラリーマンを辞めた
君への愛を綴ったポエムを
送り続けて15年
返事はまだ来ない
返事はまだ来ない
5年目にはプロポエマーだ
F1層に特にうけた
だけど僕は一途だから
他の子はひじきが生えた大根に見える
6年目に体を壊した
すでにポエムは2千を超えた
折れたことがない骨がない
壊してない内臓がない
7年目に完調した
今日は君を何に例えよう
エクストリーム・アイロンがけかな
複素内積空間かな
8年目も僕は変わらない
今日は君を何に例えよう
幕下16枚目の全勝優勝かな
AMPA型グルタミン受容体かな
君への愛を綴ったポエムを
送り続けて15年
返事はまだ来ない
返事はまだ来ない
9年目僕は事故にあった
ひどく頭を打ったらしい
自分の名前も忘れた僕だったが
君が好きな事だけは覚えてた
10年目も11年目も
記憶は戻って来なかった
それでも君が好きだった
ただただ返事が欲しかった
12年目も13年目も
記憶は戻って来なかった
まだまだ君が好きだった
それしか持っていなかった
14年目にもまだ戻らない
毎日が怖くて不安で
君を一目見たかった
君に一言言いたかった
15年目に記憶が戻った
全部思い出して泣き出した
僕は思い出してしまった
15年前君が死んだことを
君への愛を綴ったポエムを
重ねていけばいつか届くかな
君のだった部屋に
毎日放り込んだ
君がもう見えなくたって
愛し続けてやるんだ でも
また会えると思ったよ
君はまたいなくなった
君への愛を綴ったポエムを
送り続けて16年
返事はまだ来ない
返事はまだ来ない
10.クワガタにチョップしたらタイムスリップした
無機質な空の色
視界に広がる未来都市
のんきなクワガタは肩を這う
ここはどこだろう
愛らしいペットのクワガタと
じゃれていただけなのに何が起きたの
パニックを起こした私は何度も
クワガタにチョップし続けた
「戻れ!戻れ!」と叫びながら
路上で昆虫を襲う私に
現代生け花みたいな髪型の警官が
「そこのリアス式歯並びの君!」と声をかけた
未来人にコンプレックスを指摘された
お前の祖先にいたずらするぞ
平成原人は涙目で訴える
「クワガタにチョップしてるだけです!」
「10年前滅びたクワガタだ!」
警官は驚愕を顔に浮かべる
私の話を信じた彼によると
ここは50年後の世界
この時代の君に会えたら
多分帰る方法がわかるだろう
彼は粘着質に私の家を調べ出し
訪ねるとそこには私の孫が住んでいた
鮮やかに歯並びが遺伝しちゃっている
二世代経たのに無様に似てる
平成原人は涙目で励ました
「港としては非常に優秀だから!」
「この時代のあなたはここにいます」と
連れて行かれた先は病院
余命一カ月と言われて今日でちょうど
一カ月になるんです
やせ細った老人の顔は
それでも自分だとわかって
未来の自分はこの時を
待っていたかのように喋り出す
「何も言わなくていい
言いたいことはわかってる
今すべて教えればきっと
今日死ぬ運命さえ変えられるだろう
でも私が語るのはたった一つ」
「これから君は何度でも
何度も何度も後悔し
何度も何度も傷ついて
何度も何度も泣くだろう
でもその一つ一つ
噛み締めて時が経つほど
いつの日か熱を帯び
手放しがたくなるから
何も知らずに帰りなさい
私はちゃんと幸せだ」
熱を失う老人に
こぼした涙がクワガタに
触れるや否や瞬いて
いつもの風景に包まれた
まだ青い空の色